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いちいち本レビュー

たんたんと本の感想を書いていくブログ。書評よりもっと軽いメモみたいなもの。

【百年以上忘れられていた物語】「赤い橋の殺人」/シャルル・バルバラ 訳:亀谷乃里

赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)

赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)

 

★★★★★

 

海外の名作を新訳で読みやすく楽しめる光文社新訳文庫が大好きなのだが、このシャルル・バルバラという作家、名前すら聞いたことがなかった。

訳者によると、シャルル・バルバラは百年以上忘れられ、古書店でも見つけるのが困難なほどだったそうだ。

忘れ去られずにちゃんと世界に広まり、日本でも気軽に手にすることが出来るようになって本当に良かったと思える作品でした。

 

 

貧しい生活から一変して、社交界の中心人物になったクレマンには誰にも言えない秘密がある。

彼の言動をは、読んでいるこちらの心までかき乱して問うてくる。

 

 

「自分は○○な人間だ」とやたら主張する人というのは、クレマンに通じるものがあるのではないだろうか。

やましい部分があるから、殊更「自分は○○な人間だ」と主張する、自分を欺くために。

クレマンは自分を欺くことが困難で、その心情は察するにあまりある。

そして、妻のロザリも自分を欺くことが出来なかったが故に壊れていく。

 

 

ロザリと自分が重なったとこがあった。

家に引きこもり体も弱っているロザリの元に、マックスが訪れたことがロザリに幸福をもたらした。

マックスは哀れな女性が最も恐れているのは孤独だと気づき、何度も病気がぶり返すのは何より気晴らしがないせいだと思った。

普段外で活動する人がずっと家にいられることを願うし、一人の時間を望むけれど、それがありあまるほどあると苦しむことになる。

ないものに羨望して、ないものを持っている人はない人に羨望するし、やってられない。

 

最後にクレマンのセリフを引用。

「僕が育った社会では、これまで混乱と無秩序しか目に入ってこなかったし、それは今でも同じだ。まるで巧妙であるか不器用であるかが価値を測る唯一の尺度ででもあるかのようだ。この社会は誠実さはあったとしてもそれは仮面(マスク)に過ぎず、しかもそれは揺るがぬ真実だからこの社会の宗教、モラル、芸術、文学において、なによりまず社会が追及するもの、社会が強く要求するもの、それは形なのだ……」

 

自分に正直に生きることは困難で、クレマンでなくても日々自分を小さく欺きながらつじつまを合わせて不器用に生きていく。

それをさらりと自然に巧妙に出来る人と、自分の心を痛めながら不器用にしか出来ない人がいる。

正直に生きることよりを、自分を欺く術を持っている方が生きやすいのは間違いない。

 

赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)

赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)

 
赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)

赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫)